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第7話 「信じられない100%」

Author: 詩乃宮
last update publish date: 2026-07-04 11:00:29

 皇はその存在の笑顔に魅了されながらも、ふと思い至る。

(この世界の俺のアバターはどうなってるんだ……?)

 そんなことを思っていると、女性が女性の後ろにあるものを指し示した。それは鏡だった。

 そして、そこに映る姿を見て、皇は少しげんなりとする。

「現実の俺だ……」

 鏡の前で動くと鏡の中の皇も全く同じ動きをして。そうして、皇はどこまで自分と言うものが再現されているのかが気になって、服の中を見る。

 乳首の色、脇腹のホクロ、果てはナニの大きさまで完全にそれは現実の皇だった。

 あんな首輪1個で全身の詳細な情報を取れるなんて……と、感動してしまう反面、そういうの医療の領域で活かせばいいのに、なんて思いが湧いてしまうぐらいだった。

 そうして、その再現度合いに感動とも何とも言えぬ感情7割、いや、ゲームなんだからかっこいいアバター使わせてくれよ3割ぐらいの気持ちで居れば女性と目が合った。

 女性は困ったように微笑めば、そのふっくらとしたピンク色の唇を開いた。

「ようこそ、All World My handsへ。初回ログインを確認しました。ゲームで使用するお名前を決定してください」

 そう女性が言えば、皇の前にキーボードが展開される。皇は「んー……」と悩まし気な声を上げながら考える。

(確かに、現実の名前で呼び合うとゲームの世界観的に合わないよなあ……)

 そして、皇は更に考える。

(俺はこの世界でなにをしにきた、金を稼ぎに来た。なんのために、俺の人生の勝利のために)

 そこまで考えて皇はニッ、と口角を上げる。そうして、キーボードでヴィクト、と打ち込んだ。

(ヴィクトリーからそれっぽく取ってヴィクト、かっこいいだろ?)

 そうして、皇がエンターキーを弾けば、女性は言うのだ。

「ヴィクトさんですね。これから、ゲームとの適合度を測定します。少々お待ちください」

 すると、女性はその大きな瞳で皇のことをまじまじと見る。いや、多分この間に色々スキャンされたりしているんだろうけど。

(それにしても……だ)

 女性の緩くウェーブのかかった金髪は女性の蠱惑的な身体をまるでヴェールで覆い隠すようで。

 その肢体はすらり、と伸びて傷1つどころか毛穴すら見つからない陶器のような肌。胸は瑠奈よりも豊満で、尻もふっくら、と所謂安産体形だった。

 そして、なにより。大人の雰囲気を醸し出すのに、緑色の瞳は大きく少しあどけなさを演出していた。

 どれもこれもが非現実的な女性。もし、此処が個室などであったなら一晩の過ちに誘っていたかもしれない。

 いや、ゲームのNPCだ。もしかしたら、応じてくれるかもしれない。そう思うと、下半身が僅かに疼いて。

 目の前の女性を犯したい、という気持ちが芽生える。

 だが、そんな欲望をかき消したのもまた女性の声だった。

「ヴィクトさん、貴方の適合率は100%です」

「は……?」

 股間の熱がスーッと抜けていく。

(えーっと、なんだっけ。確か薊のやつはトッププレイヤーでも80%とか言ってなかったか?)

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

「はい」

「再計測、再計測をしよう。それはなにかのシステムの不具合だろ?」

 皇がそう言うと、女性は恭しく頭を下げて「かしこまりました」と言う。

 そして、女性の瞳が再度俺をとらえる。

 さっきは劣情に支配されてしまったが、今はそうはいかない。

(いやいやいや、トッププレイヤーで80%だぞ?この全ての才能・センスのない俺が100%だなんて……叩きだせるわけがない)

 そう戸惑っていると、女性は皇を見てぱちくり、とその大きな瞳を開閉して言うのだ。

「ヴィクトさん、貴方の適合率は100%です」

「なんでえええええええええええええええ!?」

豚の喉を捻ったような皇の悲鳴が響く。

(マジで、なんで?)

皇は頭を抱えたくなりながら言うのだ。

「も、もう一度……」

「再計測は1回までです」

「そこをなんとか」

「不可能です」

「もう一回ログインしなおせば……」

「先ほどご指定いただいたフレンド、アザカ様が始まりの街に招待しております。同意しますか?」

(ついに俺の意見を聞かなくなったなァ!)

皇はむむむ、と口を尖らせながらもこれ以上薊を待たせるのも気が引けて。大きなため息を1回吐く。

 そして、肩を落として言うのだ。

「計測結果に間違いはないんだな?」

「先ほどご指定いただいたフレンド、アザカ様が始まりの街に招待しております。同意しますか?」

「話ぐらいしような!?」

 これ以上の進展がないらしいことを皇は感じ取りもう半ば諦めの意味を込めた大きなため息を1回吐く。

 適合率100%。普通に考えれば、現実のパフォーマンスとのブレがあるかないか、電脳空間にそのパフォーマンスの数字を持ってこれるかどうかの数字だろう。

 その上で考える、100%とは現実での動きをそのまま反映できると。

 それは……なんというか、あまり嬉しくなかった。なんの才能もセンスもない人間、もしかしたらゲーム上での上振れがあるかもしれない、とか思ってたけど……現実と同じパフォーマンスを発揮されることが確定した。

(薊に迷惑かけることにならなきゃいいが……)

 それでも、薊は笑ってその状況を楽しむだろう。

 そう思うと、胸の痛みも少し和らいで。そして、そんな友達をこれ以上待たせまい、と皇は言うのだ。

「同意」

「では、最後に———」

(まだ、なにかあるのか……な、なげぇ……)

 そんな学校の校長の話に似た何かを皇は感じながら、女性をまじまじと見る。

(うん、これがハゲの親父だったらぶん殴ってたな)

 そう思うと、外見が大事であるということを再認識する皇。

 すると、女性は一歩前に出て皇を上目遣いに見上げて言うのだ。

「なにか……なにか、私に聞きたいことはありますか?」

「え……?」

(え、聞きたいこと?それは……どういうことだ……?)

 ゲームのNPCだ、ゲームのなにか質問点を聞いているのだろうか、そんな疑問と同時に生まれる……なにか、別のことを聞かれているような気。

 女性を見る。先ほどまで機械的に行動していた女性に、色が生まれている気がして。

 この女性?NPCと自身になにか面識があったのだろうか、という思いすら生まれてしまう。

 すると、女性は縋るような瞳でその瞳を潤ませながらもう一回言うのだ。

「なにか……ありませんか……?」

 それはまるで生きている人間のようで。その言葉に薊の言葉を思い出す。

〝プレイヤーとNPCの区別がつかない〟

 その言葉に納得しかなかった。皇も多分、このチュートリアルではなく、ゲームが始まってからこの女性が目の前に現れたならプレイヤーだと思ってただろう。

(すげえな……AWM……)

 興奮で胸が高鳴る。早く、ゲームを始めたい。

 そんな思いと同時に、この女性になにか言わないといけない気がして。

 でも、なにも思い浮かばなかった。

 皇は罪悪感を感じながら言うのだ。

「ごめん……特には……」

 その言葉に、女性は目を伏せて曖昧に微笑みながら言うのだ。

「All World My handsをお楽しみください」

 すると、足の先から俺の体が霧散していくのだった。

---------------------------------------------------------------

 ———チュートリアルの草原。

  草原にただ1人残された女性は、そのふっくらとした唇を弱々しく歪めた。

 懐かしいものを見る瞳で、嬉しさの零れる表情で。

「ついに、彼が来たのですね」

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